幻の朱い実(かつら文庫)
・・・細道の左側、四、五軒めの門口に、何百という赤、黄の玉つながりが、ひょろひょうろと突き立つ木をつたって滝のようになだれ落ちていたのだ。明子は、小走りにそこまでいってみた。
のびすぎた期は檜葉(ひば)で、それにうす緑の蔦が縦横無尽にまつわりつき、あるものは銀鎖りのように優美に垂れ、入り乱れてからまりあう蔦全体からぶらさがっているのは、烏瓜の実であった。
石井桃子の自伝的な小説「幻の朱い実」の一節です。秋の武蔵野へ散歩に出た主人公は、夕暮れが迫ってきたため、荻窪駅へ出ようとして、カラフルな滝のようなカラスウリに出会ったのです。門口にカラスウリのある家は女子大の先輩の家で、のちに桃子は亡くなるまでその家で暮らすことになります。現在の「かつら文庫」です。
「カラスくらいしか食べるものがいない」ことから、その名がついたカラスウリ。いまでは、なかなk目にすることができなくなりました。
文化厚生部 松井和男